変動 16 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

かなり大きい地震がガツンと来た。
「気をつけて、関東揺れてる、東海沖かも」
「今のところ大丈夫」

息子が怯えて私のところに来た。揺れが収まったのでもう大丈夫だよと話すと自分のベッドに戻っていった。


「逃げなくて大丈夫?大丈夫かい?」
様子の分からない徹が向こうで心配していた。
「あ”~、これで子供が寝るのがまた遅くなるぅ」
「いよいよ話してる矢先に東海揺れたね、伊豆が震度5弱、静岡市駿河区だって」

私は住むアパートの耐震基準に不安が残ることを話した。徹はそういうことにやたらに強くなったのだという。現場で倒れた家屋と、残っている家屋を見ているから説得力がある。


「東海プレート動き出したね、
 1時50分から記者会見ある、東海沖地震との因果関係だろ」
徹はテレビをつけているのだろう。
「きっと因果関係ありませんって言うのに一万円賭けるよ」
「ギャハハハそうだと良いけどね」
「言う前から分かってる。 10シーベルト出ても、大丈夫ですっていってるんだもん、それ致死量でしょ」
「地震のニュースも終了!被害無しだって」


「なんかHする気分じゃなくなってきたな」
「そうか?」
「どっちでも良いけど…こんな話の後じゃ…」
「東海地震今きたら日本は終わりだよ」
徹の今の状況では前向きにものが考えられないのだろうと思っている。もう少し光が見えれば、希望があれば。しかしそんなものはどこにも見当たらなかった。それでもどこからか探し出したい、見つけたい。


「こっちも地震だ、揺れてるぞ」
「今度はそっちなの?もういい加減にして欲しい」
「寝るとするか」
「うん、眠れそう?」
「適当に寝るだろ」
「もうすこしでイクってところでまた地震あったら困るもんね」
徹は笑いもしなかった。
「10年度米の買占め始まったって、早く買わないと高騰するな
 米食えなくなるな…」
「ま、米は何とか考える」
「しばらくH出来ないな…」
「残念だねぇ」
「このまま自然消滅になるのであろうかぁ…」
「何が?何のこと?」
「俺の気分次第か…」
「寝るんじゃないのか…今日は寝よう。お休み」


通話が切れた。徹の希望を繋がなくては。私は山形の土壌の放射線量のデータを調べていた。

「手配できる米の土壌は20ベクレル/kg以下だから問題ないと思う。新しいデータは出ていないけど、その人に頼んで玄米のまま送ってもらえるように手配する。これなら混ぜ物無しだ。食べる分だけ精米すればずっと美味しく食べられる。美味いぞ、山形の米も」


と、書き送った瞬間、文字が現れた。
「さよならも書いておくか、俺はきまぐれわがままだから」