変動21 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

徹のいない間、調べれば調べるほど、被災民を受け入れてくれる自治体はあった。被災者優先の仕事もたくさんあった。
何を持って公平かというのは、観点によって異なる。出来るだけ多くの人々が納得できるような配慮が必要だと思うが、現実そうなっていないのは何も原発の件だけではない。それが厳しい世間の現実だ。
しかし被災地の現実を見るたびに、ここから立ち直るのは非常に困難に思える。どこから手をつけていいか分からない破壊の中、ひとつひとつ越えていかねばならないその努力。私の想像のはるか彼方にあるのだろう。遠くで見ているだけの私が口出しすべき問題ではない。


いっこうに事態が改善されない部分は行政の混乱もある。徹の苛立ちはもっともだったけれど、補償問題がはっきりするのは遠い先のことのように思える。とりあえず生きて行かねばならないのだから、徹もなるべく早く自立の道を模索するのが賢明だと思えた。


「暑いね」
「エアコン切ったからマジ暑い、網戸で寝るべ。数値が上がるけどな」
「ガイガーの?」
「そうそう網戸だもん、上がるよ」
俺は絶対に節電なんかしないと言っていた徹がエアコンを切る理由はひとつしかなかった。


「徹ちゃん、半年ぐらいどこかへ働きに行くとか考えてみたら?」
恐る恐る切り出したのに、徹は再び激しい口調で怒り出した。
「だから俺に意見するなって言ってるだろ。そんなことを言うんだったら付き合ってもらわなくてもいい。マジに怒るぞ、縁切るぞ。俺は仲間が必死で踏ん張ってるときに一人だけ抜け駆けするような人間じゃねぇ。どうしてわかんねぇかな」
独身で小器用な徹が半年ぐらい出稼ぎに行って、ほかの人を助けるというやり方だってあるはずで、私はそれを抜け駆けとは思わない。
「別に気分を悪くさせたいわけじゃない」
きちんと説明しようかと思ったが、徹は聞く耳を持たないだろう。なにか徹のこだわりや引っ掛かりがそこにあるらしい。
向こうで仲間とも話して年明けには仕事を再開できそうな目途もついたのだいう。
ならば私から言うことはない。徹は短気で怒りっぽいが、切り替えは早いのが救いだ。


「ガイガーの今の室内の値は?」
「0.28かな。子供なんてもう完全被爆してるね」
「うん」
「女の子は子供産めないかもね
 子供達可哀想だよ。俺なんか残り少しだから良いけどさ。小学生はまだまだじゃん」

「なんて返事をしたら良いのか…」
しばらくの沈黙の中、子供たちすら救えない自分たちの無力さを二人でかみ締めていた。


「今日お子ちゃまはお泊り?」
「うん」
「今するか?満タンだぞ」
「あはははは、ちょっとそんな気分になれないなぁ」
余りの暑さに徹のPCが落ちたり、私のPCも不安定な中を話していた。
「じゃ今日は拡張だけにしよう」
「前からそれ言っているけど、徹ちゃんに逢わないんなら拡張しても意味ないと思うし、ガバガバになるのは嫌だ」
「毎日すこしずつ拡張すればガバガバにはならないよ」
「だいたい広げてどうするわけ?」
以前、徹は拡張しないと自分のものが入らないと言っていた。本当かどうか怪しいものだが、逢わないつもりなら拡張する意味が無い。
「doorの手が入るようになる」
それを聞いて私は震え上がった。それはもはやエロではなくグロだ。
「そうすれば、感じ方や興奮度が凄いぞ」


急いでいくつか検索をかけるとウィキペディアに絵が載っていた。
「doorの腰が抜けるな…」
「やっぱり拡張なんて嫌だ、手なんて突っ込みたくない、絶対嫌、今調べたら、もう絵が怖い、絶対嫌。とにかく拡張はしないから」
「もう俺とは話さないって?そう言う事かな…」
「そんなこといってない、だけど、拡張は怖い、絵が怖い」
「doorが怖がる事はしないよ。また先走りで何か調べてる…」
「ウィキペディアの絵、あれ見たら吐き気がするよ」
「俺も嫌われたもんだな…」
「徹ちゃんが嫌いなわけじゃないけど、拡張は嫌、それじゃ」
ノートPCがありえないくらい熱を持っていて、そのままシャットダウンして、熱を冷ました。