変動22 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

しばらくして下に保冷剤を敷き、再びPCを立ち上げると
「もう話さないんでしょ」
という文字がチャットウインドウに表示されていた。


「拡張はしないってだけの話なの。エロは良いけど、グロは嫌だ。その境界は人によって違うかもしれないけど、拡張は私にとってグロの範疇に入ることが分かった。だからしたくない。それだけ。徹ちゃんと付き合うのに拡張が必須なの?」
タイプするとすぐに返事が返ってきた。
「拡張にこだわって付き合うやついないじゃん、二人が楽しく出来ればそれが1番だぞ!」
「うん」
「それだけじゃ!」
「分かった」


それから通話に切り替えひたすら彼の話を聞いていた。時間にして3時間。いったん切る前の会話で、彼が私に執着していることが分かったから、満足していた。


サディストとマゾヒストの力関係は形式上サディストが勝っているはずなのだが、実際に民主主義の世の中で人間関係として成り立たせようとすると、どのようなプレイをするかマゾヒストの了解を得ないとならない。
つまりマゾヒストはサディストに自分の望みを伝えることになる。従ってサディストはマゾヒストの希望をかなえるために奉仕するという、プレイの形式との逆転現象が起きるのだ。互いにめぐり合うことの稀なサディストとマゾヒスト間での主導権は、実はマゾヒストが握ることになる。徹がこのことに気づかないことを願うだけだ。

「徹ちゃんは私のことどんな人だと思ってる?」



会話の流れで、そんな話になった。
「doorはしっかりしてるし、強そうに見えるけど、実はとても人に甘えたい部分があって、それに寂しがりやかな」
「あら、そんな風に思っているんだ」
こんな言い方はコールドリーディングと変わりが無い。私のことを語っているようで、徹はむしろ自分のことを話しているように思える。
虚勢を張って、仲間や友達といった今までの関係が綻んでいく中、私を得て甘えている。いつも「忙しいから少しだけな」と言いながら、延々自分のことだけ話している。そこに彼の寂しさを感じる。


他の振込みのついでに徹の口座にもまた振り込んだ。今月はいつもより多くの入金があったから、福島までの旅費も出る。後はいつ行くか、時期を窺うだけだ。


「そうだ、聞かなきゃいけないことがあったんだ。米一年でどれぐらい食べる?」
「俺そんなのわかんねぇ。考えたことも無いもん」
「昔は一人分一年で、米一俵60kgって言ってたけど、お母様はそれほど召し上がらないだろうし、徹ちゃんも週の半分近くは向こうに行っているだろうし…」
「30キロ単位だから、60か、90だよね。…足りなくて怪しいお米買わなきゃいけなくなると嫌だから、90kgにしようか。余ったら小母さんの所にでも持って行けばいいでしょ」
「俺、来年もおにぎり喰えんだな…」
「良かったね」
「しっかし、なんだってdoorちゃんにそんな繋がりがあるんだ?」


伯父が亡くなって、母が田畑山林を相続したこと、その田を人に貸していること。賃料として、米を送ってもらっていることを話した。
昨年から夏の間だけ両親が向こうで田舎暮らしをしていること。昨年より農作業が上手くなり、毎週夏野菜が送られてくること。そして私も年を取ったらログハウスを建て、そこで暮らしたいことも話した。


「そういうのいいなぁ。余裕があるって感じで憧れるよなぁ。俺も年取ったら船買って、浜辺に家が欲しいと思ってたけど、それも夢のまた夢になっちゃったもんなぁ」



ちょっと忙しいので、しばらくお休みします。