変動10 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「そうか、それなら仕方ない」
「だけど好きだからどうしたら良いか分からないの」
「俺はその辺の男性とは違うから」
「そりゃそうだ。相当変わってる」
「嫌いと面倒となればその場で終わる変わったタイプだよ。男に対してもそう」
「徹ちゃんはそれで良いけど、私は引きずる」
「俺は気にいった楽な女性と付き合う、面倒なのはごめんだね。もうガキじゃないし、歳も歳だしね」
「分かった。じゃ私は自分の気持ちに折り合いがつけられればいいんだね」
「俺は俺の色に染まる女性と遊ぶ。それが無理ならそれまでだよ」
「じゃいいや、その時は独りでたくさん泣けば良いや」
「だからdoorが俺を嫌いなタイプなら、俺を切れば良い!俺は追う事はしない!」
「そんな徹ちゃんだから好きなんだけど」
「じゃぁM女になれ、調教してやる」
「はっはは、分かった。これで完全に私だけの問題になったのね」


ならば行くところまで、自分の気の済むまで行けばよい。たかしは離したくない。徹も欲しい。以前の私からすると著しく不純だった。前の私なら自分が許せなかっただろう。今は器用に渡っていけそうな気がする。

今は、今のところは。どちらも愛してる。たかしの穏やかさを、徹の激しさを愛している。それはいけないことだろうか。
徹が新しい時計を欲しがる気持ちがよくわかる。それを否定しておきながら自分は全てを欲しがっているその矛盾。私もやっぱり「アタクシ」だった。それがどんなにいけないことでも我慢できない。一番初めにたかしの話をしてあったはずだけれど、徹は忘れてしまったのかしら。

そして徹は私のことなど大して想っていないのだろうと思う。いつも自分の話ばかりしているし、私のことには殆ど興味がない。彼の言動を見てみるとよくわかる。奉仕はM女の属性で、まさしく私は彼にとってのM女だ。私が一方的に彼を愛している。それは彼の吸引力が持続している間だけの話で、いつか私はこのような関係に疲れ果てるときが来るのだろう。その時私達の関係が終わる。



翌日の徹は激しく毒を吐いていた。
「今読んだよ。徹がどんな気持ちで書いてるか考えたら、泣きそうになった」
「俺の仲間の小さい子供を持った親達の代弁だよ。福島県は終わりだよ
 福島県に風評と言う言葉は通じないよ。あれだけ放射能がばら撒かれたんだから」
「徹ちゃんは中通り動かないの?」
「それもさっき仲間と話したよ
 ここより安全な県内に行ってからその先考えるかも知れないけど、金が無いからね。避難民生活だけはごめんだわよ。家畜以下の扱いで。原発周辺住民も、間も無く避難所が閉鎖になって仮設住宅に強制的に入るだろ、地獄を味わえ!」
「徹ちゃんみたいな人がそういうことを言いたくなるってのが、辛いな」
「東電と言う名の打ち出の小槌持って揺すればいくらでも金が出てくる。そんな考えで、仮払金で毎日パチンコ、酒、女遊びにあけくれるくずだよ」
「徹ちゃんパチンコやりたいか?酒なんて飲めない身体だろうし、とりあえず私で女遊びはできてるみたいだけど」
いなそうとまぜっかえしても激しい口調は納まらなかった。
「あいつらと同じだと指差されるのはごめんだよ」
「じゃ、原発受益住民ではありませんってステッカー貼ったら良い」
「逆に原発受益住民てステッカーを配布して顔面に貼れば良い」

「気持ちは分かるよ、仕事には戻れそうなのかな?」
「元々原発賛成して高額を貰って建設させて、原発に勤務させてもらって、全国の原発のそばに住んでる奴ら全て同じなんだよ。原発が無ければ俺の仕事は再開してたよ。」
「もちろんそうだろうね」
「あいつらは、温泉ホテルが避難所、三陸や釜石、石巻の被災民は、ハエや蚊に悩まされてる避難所暮らしだよ。おかしいだろ」
「うん、おかしい。だけど、日本中の人はそんな風だって知らない。多くの人は事柄を雑駁に単純化したイメージとしてしか捕らえていない」
「表現の自由と言う法律を盾に写真で晒す行動に出るかもね、自殺者出るよ」
「まぁ、死を選ぶ選ばないは、その人の意思だからね。良いんじゃない?徹ちゃんのやりたいようにやれば。
 ただ、恥を知らない人がハイエナなわけで、恥を知らないから平気で生きると思うけど」
「死ぬ奴は死ねば良い!生きる奴は疎開しても生きれば良い!それが今の本当の福島県だよ。だから、俺のような金の無い奴は死ねば良いと政府は避難すらさせないだろ、奴らの家族は、原発事故直後に疎
開避難してるのが事実だ!」

「 うん、東京でも例えば新潮社は会社として社員の家族に避難勧告を出した。どうなるか分からなかった時点のことだけど、報道する前にそんなことしてる。週刊誌系のマスコミまで腐ってる。
だから、なるべくなら徹ちゃんも疎開したほうが良いように思ったんだ。多分これから5年10年福島の人口はドンドン減っていくだろうと思う。すると地域で動く経済のパイも減ってくる。仕事が再開できても、地域のパイが減っているのだから収入は減ってくる。
こういうことを言うとまた怒られちゃうのかな?」


彼にどうしても伝えなければならないことがもうひとつだけあった。自ら立てる人間でないと他人を支援できないということ。自分は最後で良いという男気は見上げるけど、それを継続していくためには、まず自分が自立しないといけない。
逆に自分が自立し、仕事をしていく事。そのことだけで経済や活動を回すことができ、周りへの支援になっていくということをどのように彼に伝えれば良いのか何日もずっと考えてきた。