変動11 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「今日は終業式だから、転校生が続出したとニュースでやってたよ。金があれば疎開も避難もするよ」

「みんな見切りをつけ始めているんだね」

「原発周辺住民だけだよ。保証内容に、仕事の斡旋と記載されてるのは。転校生の親は、母親だけだよ。旦那は県内に残るの。今は、原発受益の連中が、1番権力あるよ。東電がついてるからね。国も何も言えないんだよ。


東電が、もし国に対して責任を負って発電事業から撤退しますとケツまくったらどうする?その最後の砦を東電は、残してるんだよ。」

「送電事業からの撤退は歓迎だけどね。そうなったら国がやるしかないんだろう。技術は東電が持っているから、彼らはそのまま公務員になる。変な話だけど」

「東電エリアの方々停電でどれだけ死ぬかわからないよ!最後の砦は電気を止める事なんだよ。だから政府は強く言えないの」

「何人も死ぬね。病院の機能が麻痺するし、計画停電のとき、信号機も止まるから交通事故も多発した。電車も止まる。PCも電話もファックスも動かない。日本は完全に終わりになる」

「停電させたら、数日で都内に数万人の死者が出るよ。その駆け引きを日夜、東電と政府は続けてるんだ」

「うん」

「身内に東北電力と東京電力、友達には、他県の原発勤務がいるから、あの爆発した時に逃げて来いってメールと見舞金もらったよ。身内の電力関係者は肩身の狭い生活してるよ。子供はいじめられて。それなのに行政の家族の大半は安全な所に疎開させて、俺たち貧乏庶民は見殺しだもんね。複雑だね」

「うん」

「元気な内に美味しい物を食べてみたいね」

「アジか?」

この間、この季節のアジは最高だと話したばかりだった。

「アジとカツオの刺身は飽きた…コロッケも飽きた」

「何が食べたい?」

「肉…肉食べよかな」

「とんかつ作って食べさせてあげたいなぁ… 肉ぐらい送るから住所教えろよっ」

「善意のお金で贅沢は出来ない」

肉が贅沢なら時計の話はなんだったのだろう。

「ねぇ、まず仕事だ。
 とりあえず食いつなぐこと何でも良いからやってみれば?ちゃんとした仕事はその後考えれば良いじゃない」

「今の仕事先の仲間は裏切れないよ。みんな同じ条件で耐えてるんだから。そして、出来る限りの支援するそれが東北魂だよ。義理人情で今まで行きてきたからね。簡単には仲間を裏切れないよ。同じ苦しみ味わって、同じ釜の飯食って支えあった仲間と先の話しする前に支援活動しようって言ってる時にそんな裏切る事は出来ないよ。それだけの額を動かしてたから、最後くらい世話になった所の恩返しして、潔く腹を切る連中の集まりだよ」

いったいこの人はいつの時代に生きているのかと、嘆息した。

「とりあえず生きなきゃ、お母さまもいらっしゃるし。身体はどう?」

「耳鼻科の後で整形外科にも行った。もう痛くて。腱鞘炎だって」

「私の裸で腱鞘炎になるほどオナニーできるのかぁ、いろんな意味で感心するけどそれはちょっとやりすぎだろう」

「あほー、瓦礫の撤去とコンクリ作業じゃ。週末動けないとやばいからね」

「今週末は休めば?死ぬぞ」

「そんな生半可に約束を破る事は俺には出来ない。動ける内は約束した所に行って支援する」
「わかんないやつだなー、まず自分がちゃんとしないと支援は行き止るんだ。
 泳げない奴が、おぼれてる人を助けられないんだよ。
 ユニセフや海外ボランティアが飢えている人を支援にいったって、自分たちはしっかり食べるんだよ。
 でないと支援を継続していけないんだ」

「個人支援は俺が倒れれば次の奴が行く。皆倒れてるんだよ。都会のぼんくらが何の手助けもしないでのうのうと生きてるだろ、明日は我が身の気持ちを持たないと生きれないんだよ」


「気持ちは分かるけど、徹ちゃんが動けなくなったらお母様はどうなるんだい?私だって悲しいよ」

「他県のやつら、熱さと匂いでもう来ないんだよ。だから他県が被災した時は東北からの絆なんて無いと思うよ。


見学がてらのやわなボランティアは邪魔なだけなんだよ。お袋はしっかり割り切ってるから俺に何があっても動じない人だよ」

「私は動じるよ、バカ。そんな風に人間できてないもん」

「その辺のサラリーマンや公務員の腐った奴らと一緒にしてもらっちゃ困るね」

「 あー、じゃ私のことなんてどうでもいいのね、そうなのね徹のバカ!あー変な奴と出会っちゃった」

「俺にバカ言えるだけ立派だよ」

「私が泣いたって関係ないんでしょ。私だって半分山形の血が入ってるけど、福島県人じゃないから知らん振りなんだ。何が東北魂だ」

「自分の生き方に何か口を挟まれるのと、上から物言われるのがもっとも嫌いだからね」

「裸だけ見れればそれで良いんだ、ね。勝手な奴」

それでスカイプはオフラインになって、私は泣きながら寝た。翌朝メッセージが入っていた。