変動12 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「体調が治る迄の全てのスケジュールをオフにしました」


よっぽど体調が悪いか、少しは人の言うことを聞く気になったのか、そんなに私の裸が見たいのか。その場は喧嘩になっても、あんがい素直な男らしい。こうなってくるともっと可愛くなる。なるべく早く離脱するつもりだったのに、どんどんはまり込んでいくような自分の気持ちに当惑していた。


「おはよう、ゆっくり休みなね」
「熱下がって、スケジュールOFFしたら気が抜けた感じだよ」
「熱が下がってよかったね」
「ありがとう!また一から出直しだ」
「一から出直し?ってどういうこと?」
「支援活動もこの先の身のふりかたもね」
一番伝えたかったことが、あれだけの言葉で本当に届いているのが、嬉しかった。
「そうか、じゃ私は自分の仕事するよ」
「俺は寝るからがんばれよっ」



「なんだ~この客、内容ころころ変えて凄い自分勝手!頭にくるなぁ」
私はスカイプに愚痴を貼り付けていた。仕事の愚痴くらい聞くからと、前に徹が言っていた。そう言いながら私の言いたいことはちっとも聞いてはくれず、スカイプのチャットウインドウは、徹にさえ聞いてもらえない愚痴の貼り付け場になっていた。


「俺はこつこつ調教したい~」
「こつこつってなんだ~~~ 寝てたんじゃないのか」
「起こしたんだろ!ポップ音するんだよ」
「消しといて…」
「いいよ、もう起きたから」
「じゃ、徹ちゃんはこっちとこっちどっちが良いと思う?」
男性から見た感じを聞きたくて女性向け新商品カタログのURLを2つ貼り付けた。


「全身タイツを希望します。doorは絶対似合う」
本格的な全身タイツで顔まで覆ったら似合うも似合わないも無いような気がする。
「全タイなんてマニアな世界誰も付いてこられない…徹ちゃんだけのニーズだ。あれ?」
「なに?」
「今調べたら全身タイツってアマゾンで売ってるんですが…」
「知らなかった、俺はこういうのがいい」
URLをクリックしてみるとSMショップだった。
「これはボディストッキングじゃん、股のところが開いて、いやらしいまぁ…これ、これは感じるねぇきっと」
「さっきの奴?」
「うん、布との摩擦で、体中感じるだろうなぁ」
「よし!!!!良い感じだ」
「なにに気合が入ってるの?」
「doorに着せたいのあるしぃ」
「多分私は徹ちゃんのおもちゃなんだろうなぁ」


私は徹が好きだけど、彼にとっては単に裸とお金の供給源なのだ。徹のおもちゃで構わなかったし、今はそれで良いと思っていた。おそらくこのボディストッキングだって私が買うのだろう。
「ありゃ」
「何?」
「いや」
「こういうのってさ、着る人がいないと、カタログ見てるだけじゃ面白くないじゃん。だから、そういう意味でおもちゃにされてるんだろうなぁって、可笑しかった」
「そか」
「違うの?」
「door着てたら良いなぁってね」
「あら?私メインなの?」
「そうそう!doorは派手なのが似合う」
「まぁ、光栄だわ」
次に貼られたURLはバリバリのボンデージだった。
「これ着て」
「乳が小さいからなぁ」
「胸大丈夫だよぉ」
「うん、分かった。一部のマニア向けは、また今度ね。仕事するから」


徹がどこまで本気なのか、測りかねていた。
福島もボンデージもエアセックスも徹の気持ちも私の生活と遠すぎてゲームのように現実感がなかった。まるで四角い枠の中で起こることみたい。3.11からいろんなことが起こりすぎて、見て触れられるもの以外本当のことだと思えない。だから平然としていられる。平然と書いていられる。