変動14 | 秘密の扉

秘密の扉

ひと時の逢瀬の後、パパとお母さんはそれぞれの家庭に帰る 子ども達には秘密にして

「なんか会社から宝くじがもらえるらしい。復興宝くじ当たったら、一緒に旅行に行こうね」
「温泉だな…」
「アルハンブラ宮殿に行くんだもん」
「そかぁ」
「行かない?スペインにも温泉ぐらいあるよ」
「海外は行かなくて良いなぁ、飛行機3時間以上は苦痛だ」
「ちぇ、つまんないな。台湾とかでもダメ?」
「ビジネス以上なら良いぞ!」
「もちろんビジネスだよ。でも徹ちゃんが嫌なら彼氏と行くから良い」
「ほな彼氏と行きなさい!」
「徹ちゃんに優先権上げたのにぃ」
「彼がいる人は彼と行くべきだよぉ」
「そうなんだけど、今は徹ちゃんのほうが好きなんだもん」
「今はか…ぎゃはははは」
「笑うな」
それは正直な気持ちだった。既に持っているものにかける情熱と、これから手に入れたいものにかける情熱の差。
「彼氏優先にしなさい!」
「徹ちゃんと、ビジネスで台湾旅行決定! わ~~~い」
「俺は行かないよ。彼氏いる人と行ったらやっかいな事になる」
「いいじゃん、2.3日くらい」
「面倒な事は嫌いじゃ」
「何にも面倒なんてないじゃん、面倒なのは私で。揉め事なんて起こらない」
「子供優先とか言えないのかなぁ・・・最近のママは」
「は?何言ってるの?普段私がどんだけやってるか知らないからそんなことが言えるんだよ」
私は物凄くむっとした。
「そうか」
「当たったら、悩もうね」
「悩まないよ」
「じゃ、当たったらハワイアンズに家族旅行で良いんでしょ。
 復興にもなるし、徹ちゃんにも逢えるし、一応ハワイだし、子供も喜ぶ」
「俺はあそこ嫌いだから」
「家族旅行だって。徹ちゃんのいうとおりにしてるじゃんか」

やっぱりたかしのことを言うべきじゃなかったなぁと思う。なんだか不機嫌にさせてしまった。
はじめにまだここまで徹のことを好きになる前伝えたはずだけど、忘れているみたいだから少しは伝えておかなくちゃならないと、思ったのに。
あれ?どうしてそんなに機嫌が悪いんだろう。もしかして少しは脈があるのかしら…


しばらくハワイアンズの悪口を言った後、徹は気分を変えたようだった。
「今回の被災者義捐金の中のお見舞金1万円がお袋に出るから温泉に行かせる。疲れてるから」
「うんうん」
「お見舞い1万だって。doorちゃんのほうが市より優しいよなぁ、人間出来てる。おかげで、冷やし中華も買えたし、 お米も買わせてもらった」
「たくさんの人には配れないから」

「明日からまたボランティアに行ってくる」
「怪我しないように、無理しないようにね。さよなら」
「いよいよ俺に別れを決意したか…さよなら~」
「バカ、行ってらっしゃい」


徹の居ない金曜日と土曜日、日曜日と、全く連絡が無い。さすがに月曜の午後は気が狂いそうだった。大雨の中何をやっているのか。大きい余震もあった。ちゃんと食べているのだろうか。先週の旅行計画のことで、機嫌を悪くしていた徹が、もう私を嫌になってしまったのかもしれない。不安になる材料は山ほどあった。寂しさと不安で涙が出てきた。今書いているここも結末が見えた。少しの間辛いけど、これで元に戻れるよね。少しホッとしている自分もいた。